4月14日 星野裕矢が行なったデイホーム桜丘への出前ライヴに立ち会った。
彼がこうしたことをするきっかけは、彼が仕事をしていた喫茶店にやってくる高齢のお客さんから、彼の歌を聴く機会が欲しいと言われたこと。そのお客さんが利用しているデイホームへの出前ライヴを、ボランティアで行なうようになったという。
ライヴハウスやロック・バーでのステージとは違った魅力が発見できるのでは? と思い、スタッフとして同行することを申し出た。
この日の彼の選曲はこういうものだった。
この道
北国の春
与作
知床旅情
愛燦々
月夜(オリジナル)
もちろん高齢者の方に喜んでいただくための選曲だが、僕にとって衝撃だったのは「与作」である。
「与作」は1978年の北島三郎のヒット曲として知られている。
これを作詞作曲した七澤公典は、1948年生まれでジャズ・ギタリストとしての活躍でも知られる。
1961年生まれの僕の世代感覚からすると、失礼ながら「与作」はあまりにも有名すぎる他の世代の歌であって、ギャグや照れ隠し抜きには向き合いにくい。
例えば僕とほぼ同世代(1962年生まれ)の水戸華之介は、1996年に発表した『made in BABYLON』というソロ・アルバムで「与作」をカヴァーしているが、なんとディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のギター・リフに原曲のメロディと歌詞をぶつけるという破壊的なまでのギャグをぶちかました解釈であった。これはこれで世代的なシンパシーもあったため、ある種の痛快さを伴って強く印象に残っている。
しかし星野裕矢の歌う「与作」の解釈は、完全な直球勝負!
聴いている僕の脳裏には森の中で与作が木を切る姿が、郷愁を伴って浮かび上がってきた。
楽曲の生まれた原風景に、敬虔な意識で踏み入っていこうとする星野裕矢の姿勢に圧倒されたのである。
原曲への真摯な態度でジャンルを越境していく星野裕矢の志の高さは、この曲を生み出した七澤公典のスタンスにも通じるところがあるのかもしれない。
ちなみに僕が星野裕矢と知り合うきっかけになった拙著「玉置浩二★幸せになるために生まれてきたんだから」の第四章“スターダム”冒頭には、“父に贈った<与作>”という一節があるので、ちゃっかりご紹介させていただくことにする。
玉置浩二が安全地帯のデビューに向けて、拠点を東京に移した日の朝を、父の一士ははっきりと覚えている。
「私は演歌が好きだったけど、あいつはあまり好きじゃなかったんです。
でも東京に行くその日の朝に、浩二が『親父は演歌が好きだから、演歌を歌って東京へ行くわ』って言って、家の中で北島三郎さんの〈与作〉を歌ったんです。これがまた……自分の息子のことをこういうのは変なんですけど……これはうまい!と思って、私は唸りましたね。これだけうまかったら、東京に行ってもものになるんじゃないか、そんな感じはしましたですね」
ジョイント・ライヴ at 高円寺・稲生座 志田歩 vs 星野裕矢
5月10日(木)20:00 start
チャージ1570円+オーダー
稲生座 Phone:03-3336-4480
東京都杉並区高円寺北2-38-16 サニーマンション2F
http://www2.odn.ne.jp/raychel/menu.html